カズケン初SSです。
「好き好き健二さん僕のお嫁さんになって結婚してっっ!!!」
陣内家親族一同揃っての食事時。
カチャカチャと食器の触れ合う音に、賑やかな子供達の
喋り声。豪華ではないが、手間暇かけた沢山の惣菜が
並べられた不揃いのテーブル。
はふはふとご飯を掻き込む背中を、苦笑しながら擦って
やる母親達。
ねぇ、これ誰が作ったの?レシピ教えて?あ、醤油取って
くれる?おかーさん、こぼしたぁ。あらあら・・・。
煮物の匂い。お出汁の香り。艶やかな濃紫の光沢が美しい
茄子の漬物。唐揚げが香ばしい湯気を立て、シャッキリと
彩り良く盛られたサラダのグリーンに、アクセントの真っ
赤なプチトマト。
そこかしこでコポコポとグラスに泡を立てて注がれるビール
の音と、グラスに氷が触れる音。おかわりをねだる声、大人
達の陽気な笑い声。
そんな平和な食卓が、佳主馬の突然の叫び声で水を打った
ようにシンと静かになる。
一瞬の後、翔太がブホッとビールを吹いたのを切っ掛けに、
何事も無かったように一同の食事が再開された。
―――しかし。
「うんうん。いーよー」
よろしくお願いしま~す。
健二ののんびりとした科白に、ボハッと太助がご飯を吹いた。
一同、静止。再び沈黙。
「ありがとう健二さん好き好きもう超愛してる俺一生あなたを
幸せにしてあげるよもう絶対放さないから覚悟して取敢えず
今夜は一緒の布団で寝ようねおやすみのチューしてあげる
からおはようのチューして下さいちゃんと唇にっっ!!」
ノンブレス&ノン句読点で言い切った佳主馬に、箸を持った
ままの両手をがっしりと握りしめられた健二は、へにゃりと
笑って機嫌良くハイハイと頷いている。
「・・・け、健二君・・・?」
恐る恐る夏希が声を掛けると同時に、全員の視線が佳主馬と
健二に注がれた。
「・・・佳主馬?」
さっきまで鼻息荒く健二に詰め寄っていた佳主馬は、何故か
健二の膝に突っ伏している。
「あらやだ、寝てるわ。この子」
健二の膝に顔を埋めたまま、すーすーと寝息を立てる佳主馬を
横から覗き込んだ聖美が呆れたように口元に手を当てた。
「え、何。今の寝言?」
直美が不可解と描いた顔でビールを煽る横で、理一がああと
合点がいったとばかりに顎を撫でる。
「佳主馬、これ飲んじゃったんじゃないか?」
そう言って指さしたのは、氷で薄まった琥珀色の液体が僅かに
残ったグラス。匂いを嗅いで見れば、どうやらウィスキーの水割
らしい。その横に、氷と麦茶の入ったグラスが並んでいる。
どうやら、佳主馬は自分の麦茶のグラスと間違えて水割りを一気
飲みしてしまったらしい。
「なーんだ、吃驚した」
「佳主馬って、お酒に弱かったのねぇ」
「おっちょこちょいだなぁ」
あははははは。
和やかに、且つやや強引に三度再開された食卓で、理香がポソッ
と呟いた。
「・・・これ、誰の水割りのグラスだったわけ?」
佳主馬の隣には健二が座っている。もはや陣内家ではそれが定
位置となっていて、誰も疑問に思わない。
一同の視線が一斉に健二に注がれた。
佳主馬のインパクトが有り過ぎてうっかり流していたが、唐突な
佳主馬のプロポーズに健二は何と答えたのだったか?
あれ?と一同が首を傾げた時、膝の佳主馬から健二が視線を上
げた。
「僕、今日はもうこれでお休みさせて頂きますね」
へにゃりと気弱な笑顔を浮かべるのは、いつもの健二だ。
いつのもの健二に見える。
だがしかし。
薔薇色に上気した頬で、ほにゃほにゃと嬉しそうに佳主馬の頭を
撫でている健二の体は、微妙に左右に揺れている。
佳主馬が飲み干す前に健二がどれ程の量を口にしていたのかは
不明だが、とろんと潤んだ瞳を見れば一目瞭然。
「・・・酔ってるわね」
「これは完全に酔っぱらってるねぇ」
直美と理一が頷きあう。
まあ、だとしたら先程のやりとりも然して気にする事もあるまい。
佳主馬が健二に懐いているのは周知の事実だし、健二も佳主馬を
弟のように可愛がっている。
酔った勢いというやつだろう。
うんうんと頷きあう一同。
「健二君、重いだろ?佳主馬は部屋に運んで・・・」
おくからと言いいながら克彦が伸ばした手を、パシッと健二が払った。
「えっ?!」
「ええっ??!!」
予想外の事に手を引っ込めた克彦もだが、陣内家一同が驚きに
あんぐりと口を開けた。
まさか、健二がそんな真似をするなんて。
「あ、あの・・・健二君?」
健二の両手はいつの間にか、確りと佳主馬の身体に回っている。
「あ、聖美さん。僕、今日は佳主馬君と一緒に寝かせて貰い
ますね」
「え?でも、健二君・・・」
酔っ払いの面倒みさせるなんてと戸惑う聖美から、健二は
半ば隠すように佳主馬を引き寄せる。
「だって、おやすみとおはようのチュウするって佳主馬君と
約束しちゃったし。約束は守らないと」
「・・・・・・」
一同、じっと健二を見る。
にこにこにこ。
笑顔だ。
「・・・・・・・・・・そ、そう」
聖美が折れた。
何も言い返せない一同に、「では、おやすみなさい」と丁寧に
告げて、健二は何処までも笑顔のまま、佳主馬の両脇に手を
入れると、よいしょと言いながら意識のない佳主馬を引き摺って
行った。
開け放たれた障子から引き摺られていく佳主馬の足が消えて
から、誰ともなく声が上がる。
「・・・夏希、健二君とられちゃったわね・・・」
「え?!そうなの?そうなるの?!」
「・・・するのかしら、おやすみのチュウ・・・」
「・・・するんじゃない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
顔を見合わせる一同に、のんびりとした理一の声が掛る。
「まぁ、お婿さんがお嫁さんになっただけだよねぇ」
結果として、健二が陣内の一員になる事に変わりは無い。
あ、そっか。んじゃいっか。
大人達は納得した。
・・・納得する程度には、皆すでに呑んでいた。
子供達は我関せずとばかりに、早々に食事を再開させている。
「ま、あんだけ呑んでたら、翌朝記憶が飛んでるに一票、だな」
それまで隅っこで黙ってビールを飲んでいた侘助が、シシシと
笑い声を上げた。
果たして翌朝。
広い陣内の屋敷の一角から、絹を裂くような悲鳴が二つ上がる
のに、ホラなと侘助が可笑しそうに肩を竦めたのだった。
おわり。
無自覚カズケン。
同じ布団の中で、なんで健二さんがいるの、佳主馬君こそなんでいるのとか、誰かが呼びに来るまでずっとアワアワしてれば良い。
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ついったもぴくしぶもしない無精者。