暗闇にすうと浮かび上がって流れて行く、小さな花片。
それ自体が淡い燐光を放つように、漆黒の闇にふわりと
現われて消える。
花弁がやって来た方向をに視線を上げれば、夜闇の中に
ほの白く浮かび上がる桜の古木。
そこからハラリ、またハラリと風に乗って花弁が舞っている。
そのひとひらが、傍らに佇む人の髪に留ったのに気付いた
健二は、そのままその人物―――佳主馬に見惚れた。
(・・・うわぁ。夜桜と佳主馬君んて、絵になるなぁ)
夜に溶け込むような、艶やかな漆黒の黒髪。
すっきりとした鼻梁に意思の強さを湛える凛とした眼差し。
その周囲に踊るような桜の花片。
出逢った頃の華奢な手足は、若木が伸びるように成長し、今では
誰もが振り返るような美丈夫へと佳主馬は変貌を遂げていた。
ここは今日から健二と佳主馬が一緒に暮らすアパートから程近い、
小さな公園。
引っ越しの片づけを漸く済ませ、深夜と言って良い時間帯、近所の
コンビニに買い物に出た帰りに見付けた場所だった。
1本だけ咲く古い桜はそれは見事な花を付けているが、敷地も狭く
大通りからも外れているので、ここではハタ迷惑な花見客も見当た
らない。
夜の散歩ついでに夜桜を楽しむには、絶好の場所だった。
「・・・きれい・・・」
ポツリと漏らした健二の呟きに、佳主馬は桜に向けていた視線を
健二に向けた。
凛とした視線が健二を映して、滲むように優しく和む。
「・・・・・・っ!」
佳主馬の瞳の変化に健二はバクバクと暴れる心臓に息をつめた。
「うん、キレイ。丁度満開だね」
「そ、そうだね。ハハハ・・・」
(い、言えない。桜じゃなくて佳主馬君に見惚れてたなんて)
恥ずかし過ぎる考えに内心冷や汗をかいていた健二は、佳主馬の
目が悪戯っぽく輝くのに気付かなかった。
「・・・健二さん」
甘く囁くように呼ばれて、ハッと我に返る。
そのまま肩を軽く抱いて身を寄せられて、健二は焦ったように声を
上げた。
「ちょっ・・・!佳主馬君?!ここ外・・・」
近付いた体温に思わずギュッと目を瞑るが、暫く固まっていても何も
起こらない。
(・・・あれ??)
恐る恐るそっと目を開ければ、間近に端正な佳主馬の顔が有って、
思わず仰け反り掛けた。
「うわっ?!」
「健二さん、驚き過ぎ。髪に花弁が付いてるよ?」
そう言って健二の猫っ毛を優しく梳く佳主馬がクツクツと笑っているのに
気付いた健二は、佳主馬にからかわれたと気付いて、むうと唸る。
「・・・そういう佳主馬君だって、頭に花弁のってるよ!」
悔し紛れに手を伸ばして、佳主馬のサラサラの黒髪を掻き回した。
「うわ?!ちょっと健二さん?」
ぐしゃぐしゃと指通りの良い髪を掻き回せば、タンマタンマと佳主馬が降参の
意を伝えて来る。
「年上をからかうからだよ」
尤もらしく告げれば、乱れた黒髪を掻き上げながら、佳主馬がハイハイと
然して反省していない声で返事を返す。
「流石に、外ではしないよ?」
「・・・・・・」
ことりと首をかしげてパチリと瞬いて見せた佳主馬に、健二は内心どうだかと思う。
ちょっとその仕草、可愛いから止めてくれないかな。
「だからさ、早く帰ろうよ」
二人の家に。
そう言って微笑んだ佳主馬が右手を差し出す。
「・・・佳主馬君・・・」
いつも健二を支えてくれた手。いつも健二を助けてくれた手。
愛情に尻込みする健二を引き上げて愛してくれた手。
ずっと放さないと誓ってくれた手。
きっと、佳主馬は気付いている。身を寄せられても逃げなかった健二の意を。
健二だって、本当はあのまま佳主馬が口吻けしてくれるのを待っていた。
「佳主馬く・・・」
「桜は明日でも見に来れるし・・・アイス溶けちゃうよ?」
「あっ!そうだった!!」
健二はハッと手に持っていたビニール袋を覗き込んだ。
「風呂上がりにアイス食べたいって言ったの、健二さんの癖に~」
佳主馬が歩き出す。
「桜だって寄り道したの、佳主馬君じゃん」
健二も歩き出す。
その片手は、佳主馬と繋がれている。
「あ~あ、奮発して買ったハーゲンダ●ツの期間限定アイスがぁ~」
健二が情けない声を上げる。
「暫く冷凍庫入れとけば固まるよ」
二人は肩を並べて夜を歩く。
二人の家へ。
「・・・じ、じゃあさ、アイスが固まるまで二人で仲良く時間を潰さないと・・ね」
「・・・!」
消え入るような声で紡がれた健二の科白に佳主馬が思わず振り向けば、
下を向いた旋毛がみえるのみだったが、項垂れた襟首から覗く白いうなじは
真っ赤に染まっていた。
珍しい健二からの御誘いに、佳主馬の口元が緩む。
大丈夫。だらしない顔をしている自覚はあるが、羞恥に震える健二が顔を
上げる事はないだろうから、見られる心配は無い。
「・・・・・・なんか言ってよ」
反応を返さなかったら、繋いだ手にぎゅうっと爪を立てられた。
可愛い真似してくれるじゃない。
「も・・・かず、わわわっっ?!」
だから、繋いだ手を引っ張って佳主馬は上機嫌で駆けだした。
「うんうん、健二さん。早く帰ろう」
「だからって、は、走らなくてもっっ」
コンビニの袋がガサガサと音を立てる。
「待てない。早く帰って思いっきりキスして抱き締めたい」
言えば、健二のスピードが無言で上がった。
そんな健二に、佳主馬の口元は更に緩む。
これから帰るのは、二人で過ごす二人の為の家。
桜の花が咲き誇る季節に始まる、新しい二人の人生。
戯れるように駆けて行く二人の姿を、風に乗った花弁が見送った。
おわり
・・・勢いで書いたから、途中から支離滅裂に。
夜のお散歩が書きたかったけど、欲張ったら取りとめが無くなった(汗)
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ついったもぴくしぶもしない無精者。