あらわしが落ちた夏からその後。
名古屋在住で中学生の佳主馬と、東京に住む高校生の健二との間で恒例となった
チャットの時間。
Webカメラで繋いだ画面に現われた健二がどんよりとした空気を背負って、余りにも
力無くうなだれていたので、佳主馬は目を瞬いた。
「・・・どうかしたの?健二さん」
「・・・佳主馬君・・・僕は、僕はもう、駄目だ・・・」
そう言うや否や、健二は顔を覆ってさめざめと泣き出す。
「はぁ?」
呆気に取られてその様を見つめていた佳主馬は、やれやれと内心でため息をついた。
(この人はまた、何をやらかしたんだか・・・)
健二が色々(主に生活面において)駄目なのは今更だが、本当に駄目な訳じゃない
事くらい解っている。
「いいから落ち着きなよ。健二さん」
この台詞、今迄何度この人に言ったかなと思いつつ、佳主馬は一体何があったのと話の
水を向けてみた。
健二はビクリと肩を竦めると、おずおずと顔を上げる。
「・・・あ、呆れない?」
「内容によるね」
きっぱり告げれば怯んだように健二が息を呑んだか、やがてポツポツと喋り出した。
「あ、あのね・・・」
健二の話を要約するとこうだ。
今日は健二にとって何て事のない、極々普通の日だった。
寝坊もせずに起床し、陣内家の教えを守って簡単とはいえきちんと朝食を取り、登校して
授業を受けた。
二時間目が終わって休み時間、トイレに立った健二は個室に入ってまずベルトを外した。
普通の動作である。なにも問題は無い。
次いでズボンを下ろした。降ろさねば用が足せない。だって大きい方だから。
更にパンツをおろした。
余談だが、健二は昔ながらのグ●ゼの白いブリーフを愛用している。
便器に腰を下ろした時点で、健二は異変に気付いた。
・・・何故パンツを穿いたままなのか。
膝にはさっき降ろしたパンツが寄せられている。
トイレに入って初めて、自分がパンツを二重に穿いていた事に気付いた健二だった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
佳主馬の沈黙が痛い。
「・・・なにやってるのさ・・・」
呆れたと言うより、疲れた様に呟いた佳主馬に、健二がくわっとモニタに向かって身を乗り
出した。
「佳主馬君にわかる?!トイレでパンツを二重に穿いてて、かつそれに全く気付かなかった
己に対するこの切ないガッカリ感っっ!!!!」
いや、解らない。
佳主馬は無表情のまま、心の中で突っ込んだ。
「慌てて1枚パンツを脱いだは良いけど、脱いだパンツを隠す場所も無いし、穿き続けるのは
もっと嫌だしっっ!!」
そりゃそうだ。真冬なら防寒として有りかもしれないが、生憎今は初夏。ここ最近日中の最高
気温は26度を超える汗ばむ陽気で、パンツ2枚重ねでは確実に股間が蒸れそうだ。
「仕方なく脱いだ1枚をちっさく畳んでポケットに隠して鞄に突っ込もうとしたら、佐久間に
バレて散々馬鹿にされたんだよっ?!しかも夏希先輩にまでバラしやがって、あのメガネ
いつか叩き割ってやるぅ!!!」
そう言ってオイオイ泣き始めた健二をモニタ越しに眺めていた佳主馬は、やるせない思いで
深い深い溜息を吐き出した。
(・・・健二さんが本当は凄い人なのは解ってる)
だがしかし。
(・・・いろいろ残念にも程が有る・・・)
されどもっと残念なのは。
「・・・そのパンツ欲しいとか思ってる、自分だよね・・・」
佳主馬の小さな呟きをマイクは拾わなかったようで、健二が不思議そうな顔でこちらを見ている。
「うう・・・。佳主馬君、やっぱ呆れたんでしょう」
今に机にのの字を書きそうな健二に向かって、佳主馬はニッコリ笑って見せた。
「うん、そんな健二さん、スッゴイ可愛いよね」
モニタの向こうで盛大にズッコケル姿と音が聞えて来た。
おわり
素直に4コマ漫画にでもすれば良かった。
因みに実話です。
実際はパンツじゃ無く、ガードル二枚穿きしてました。
家で着替えた時、全然これっぽちも気付きませんでしたよ、ええ。しかも上にジーンズ
穿いてたってのにね。
会社行って朝トイレ入って、パンツの上にガードル2枚穿いてた時のガッカリ感たるや
半端無かったです。
やった事ある人にしか解らないやるせなさですよ。どうせ。
しかも、過去には全く無自覚でパンツ2枚穿きしてた事も有ります・・・あの時は酷い
修羅場中だったんで、やるせなさより笑いがこみ上げましたが、今回はとても切な
かったです・・・。
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ついったもぴくしぶもしない無精者。