Asterism

只今絶賛原稿中の為、気分転換のアホネタ佳主馬バージョン。
あ、金曜のエヴァQの感想に同意？して下さった方、どうも有り難うございます。・・・似てますよね？アレ。

「・・・酷い、酷いよ。こんな裏切り・・・」
佳主馬が驚愕に目を見開らいてゆるゆると首を振るのを、健二は想像していたよりも平静に受け止めた。
信じられないとか細い声で漏らす佳主馬に、容赦無く現実を突き付ける。
「諦めなよ佳主馬君。これが現実さ。どうにもならない」
「有り得ないよっ！！なんっで」
キッと佳主馬が顔を上げる。
その瞳に傷ついたような揺らぎ湛えて、真っ直ぐに健二を、正確には健二が手にした物を糾弾するが如く指さした。
 

「な・ん・でっ！レーズン入ってるのさっっ！！」

健二は手にしていた皿を佳主馬の前に置いた。
その上には、健二の手によってカットされた白いチーズケーキが乗せられている。
「・・・まぁ、入ってるタイプも有るよね」
健二は首を傾げた。
滑らかなレアチーズケーキは香ばしいクッキー生地に乗っているが、底の層にレーズンが敷き詰められている。
「買って来たの、佳主馬くんじゃない」
「・・・だから余計悔しい」
偶々、駅を抜ける近道として佳主馬が足を踏み入れたデパ地下では、丁度タイムセールをやっていた。
そこで半額の札を付けられていた、小ぶりなサイズのホールのケーキやタルト。
普段ならカットされたタイプのケーキしか買わないが、その日は偶々食指が動いた。
値下げシールの効果も馬鹿に出来ない。
美味しそうだな、と思ったのだ。特に甘党でも無い佳主馬にしては珍しく。
「こんな事なら、スフレの方買ってくれば良かった・・・」
食物に対して舌打ちする佳主馬が珍しくて、健二は瞬いた。
「そんなにレーズン嫌い？」
苦手らしいのは何となく知っていたが、此処まで嫌いな食べ物だとは知らなかった。
佳主馬にはあまり好き嫌いがあるというイメージが無い健二だったのだが。
「食感がムカツク」
キッパリと言い切った佳主馬に、今更のように気付く。
「今迄、佳主馬君がケーキ買うとカットされてるものだったのは・・・」
大概のケーキは三角や小さい四角等にカットされて売っているし、てっきり健二と佳主馬の二だけだからと思っていたのだが。
「カットされてるタイプなら、中にレーズン混ざってるか分かるからね」
一応、外見を検分して買ったのだ。外側にレーズンの姿は確認できなかった。所がどっこい。
ナイフを入れて切り分けてみれば、断面には忌々しい茶色の粒々。しかも結構大粒。
油断したと項垂れる佳主馬に取敢えずフォークを差し出せば、唇を噛んで受け取った後ブスッと滑らかな表面に突き刺した。
「・・・主馬君、行儀悪いよ」
白いレアチーズケーキを穴だらけにしてレーズンを穿り出す佳主馬に、呆れた視線を向ければ、やや涙目でキッと睨まれた。
「行儀悪くて結構、子供っぽくて結構。俺は断固拒絶する！！」
アップルパイに入っているレーズンは勿論の事、ドライカレーに混ざっているレーズンなど言語道断。なんでワザワザこんな物混ぜる必要が有るの。レーズンパンとか存在意義が判んないよ。因みに某銘菓「マル●イバターサンド」は、たっぷりレーズンの入ったクリームからクッキー部分を外してクッキーだけ食べるとも。
「そこまで嫌いなの？！」
佳主馬は拳を握って豪語するが、健二は然程気にならないし嫌いではない。
普段、食についての立場は健二の方が分が悪いので、こんなふうに好き嫌いを言う佳主馬が珍しくて、ちょっとかわいい。言ったら拗ねそうだが。
「・・・美味しいのにねぇ？」
皿の端に避けてこんもり山になったレーズンをひょいと一粒抓んで口に入れれば、佳主馬が無言でレーズンの山を健二の皿に移した。
「あげる健二さん。遠慮なくどーぞ」
「・・・佳主馬君」
健二はフォークに幾つかレーズンを刺すと、ニッコリ笑って佳主馬に差出した。
「はい、佳主馬君。あーん？」
「・・・・・・・・・あんた鬼か」
果たして。
上機嫌でフォークを差出す健二に口元を引き攣らせる佳主馬が、初めての健二からの「あーん」に抗い切れたか否か―――。

そして後日。
「酷いよ佳主馬君っ！！」
キッチンに健二の悲鳴が響き渡る。
「酢豚にパイナップル入れるなんて、信じられない！！」
「ポテトサラダにリンゴ入れるの平気なのに、なんでこれは駄目なの」
さ、冷めないうちに召し上がれ？
笑顔でスプーンを差出す佳主馬に、遅まきながら先日の意趣返しをされているのだと気付いた
健二だった。

おわり

レーズン好きの方、ゴメンなさい。
昔からレーズン嫌いで。というか、干し果物系全般が苦手です。杏仁豆腐のクコの実すら避ける。
家でよく干し柿作ったけど、絶対食べなかったなぁ。
「マル●イバターサンド」はレーズンさえ入って無かったら、美味しいと思います。