同じアパートの同じ階で3人それぞれ一人暮らし中。
カズケンになるか微妙なラインの友人関係で、3人仲良し。
お互い無自覚の佳主馬←健二になるといいお話。
カーテンの隙間から射す薄日と、窓の外からチュンチュンと鳴き交わす雀の声に
健二は朝が来た事を知る。
「・・・ふわ」
大きな欠伸を一つしてムクリと起き上がると、ぺたぺたと足音を鳴らして洗面台へ
向かう。バシャバシャと顔を洗って顔を上げた所でくんと鼻を蠢かせると、健二の
顔に笑みが昇った。
寝起きの悪い自分の覚醒を誘ったのが、朝の気配では無く漂って来るこの香りだと
気付く。
(ああ・・・)
健二は心に浮かんだ言葉をそのままケロッと口にした。
「―――佳主馬君と結婚したい」
ブロロロー・・・。
表の通りをバイクの走り去る音がする。
「健二さん、味噌汁冷めるよ」
ひょこっと健二の視界に佳主馬の首が現われる。正確には健二の背後から洗面所を
覗き込んだ佳主馬が鏡に映っていた。
「あ、ゴメン。今いくよ」
「ん」
振り向いてへにょっと笑えば、佳主馬が頷いて顔を引っ込める。
先程の健二の科白は綺麗にスル―されるが、健二は気にしない。
何故なら、これはほぼ毎日繰り返されている科白で、そこに大した意味は無い。
タオルで顔の水気を拭って、急いでキッチンへ向かう。
カリカリベーコンと半熟目玉焼き。豆腐となめこの味噌汁に、きゅうりと茄子と茗荷の
浅漬け。艶々の白いご飯の横には、佐久間の出張土産の辛子明太子も並んでいる。
キッチンに用意された完璧な朝食に、健二の眼がキラキラと輝く。
「うわ~。今日も美味しそう!」
「いいから座って、健二さん」
身を乗り出す健二に、黒いエプロンを外した佳主馬が椅子を指す。
「うん!」
健二がいそいそと佳主馬の向かいに腰をおろす。
「ホント、マジパねぇよキング流石ですキング。もう何なの、イケ面でキングカズマで
料理の出来る青年実業家って、どんだけ?!あ、醤油とってキング」
「あ、佐久間おはよ」
「おう、おはよーさん」
「はい醤油。でも佐久間さん、食べる前に」
佳主馬は横に座っている佐久間に、チロリと目を向ける。
「ハイハイ。解ってますよ~」
3人静かに手を合わせる。
「「「いただきます」」」
言うと同時に各々食事に手を伸ばす。
同じアパートの同じ階で各々一人暮らしをしている3人だが、数学が過ぎて一度倒れた
事の有る健二に人間の食生活を送らせる為、朝食は佳主馬が作っている。
いけないのは、一人でいる事。おなかを空かせている事。
佳主馬にそんな事はさせられないと、はじめ恐縮する健二に佳主馬は腰に手を当てて
散々説教をかました。
「何言ってんの。隣りの部屋に住んでるんだよ?一緒に食事した方が効率いいし、もし
次倒れたりしたら、陣内一同にチクるからね?!」
ギラリと光った佳主馬の眼は本気モードだった。食事を抜いて倒れたなんて事があの
一族にばれたりしたら・・・健二の背に汗が伝った。
だが一通り言い終えた後、佳主馬が作ってくれた食事を初めて食べた健二は、その余りの
美味しさに箸を咥えたまま、「宜しくお願いします」と土下座した。
食材は陣内から豊富に届くので問題ない。佳主馬の料理の腕はプロ並みで、その腕前を
知った佐久間も「キングのご飯、俺も喰いたい!仲間外れ嫌っ!!」と訴えたので、
以来だいたい毎日一緒に朝食を摂っている。
健二は場所とエプロンを佳主馬に提供し、佐久間が後片付けと調味料等細々した物を
負担している。
「あ~美味ぇ。白いご飯最高。コメは正義だよなっ」
キュッキュと茄子の浅漬けを噛みしめて、しみじみと佐久間が言う。
「うぐうぐ・・・」
健二も同意とばかりに相槌をうちつつ、必死にご飯を食べる。とろりと半熟の黄身と
醤油のかかった炊き立てのご飯は、元来小食な健二でも残さず食べようと躍起になる程
美味しい。
「健二さん、付いてる」
「んぐ?」
佳主馬が健二の口元に手を伸ばして口の端についた米粒を取ってやると、そのままパクリと
自分の口に指を入れる。
「あ・・・ありがと」
「キング・・・」
「?なに」
佳主馬はテーブルに突っ伏した佐久間に、不思議そうに首を傾げる。健二もキョトンと
佐久間を見ている。
(無自覚って怖ぇぇ~)
今のやり取りは、世間では新婚さんか恋人同士の間で行われる行為だ。少なくとも佐久間の
常識ではそうなっている。健二にしたいと思わないし、されても嬉しくない。同性同士の
友人間ではあまりやらない。やらない筈なのだが、この二人はこういった事をさも平然と、
何のてらいも無くやってくれる。
佳主馬は出逢って数年で長身痩躯の美丈夫へと変貌を遂げ、文句のつけようの無い男前に
なったが、昔と変わらず健二を尊敬する年上の友人として・・・というか面倒みないと
いけないとばかりに健二の世話を焼いている。
健二は健二で、佳主馬は憧れのキングカズマでヒーローだ。正しく強い事の象徴であり、
受け入れて信頼して、心を預け切っていた。
二人はただただ、友人として相手を大事にしている。
先程聞えて来た健二のプロポーズまがいの台詞も、どうせ佳主馬のご飯が毎日食べれると
シアワセだ位にしか思っていない、「想い」の籠っていない科白だ。
故に聞かされた佳主馬もノーリアクションだ。突拍子も無い事を言われても、精々「健二
さんだし」と言って大して気に留めてないないに違いない。
(・・・まあ、先の事は分からないけど)
この先、何かの切っ掛けで二人の意識が友情から違う方向に向き合う事も有るかもしれない。
けれど、取敢えずそれまでは。
気の置けない3人で囲む食卓が、ずっと続けばいい。
佐久間は空になった茶碗を突きだした。
「おかわり下さいっ」
おわり
佳主馬に無自覚に結婚を迫る健二が書きたかった(笑)
ちょいちょいこの設定でお話書く予定です。
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ついったもぴくしぶもしない無精者。